「余った完組ホイール」で手組みは可能?アルテグラをバラす前に知るべき危険な落とし穴
ロードバイクのカスタマイズに夢中になると、誰もが一度は「ホイールの手組み」に憧れます。
「自分でハブやスポークを選んで、オリジナルのホイールを組んでみたい」 「ちょうど使っていないアルテグラの完組ホイールが1セット余っている。これをバラして、ハブやスポークを交換できないだろうか?」
この「完組ホイールの部品を使った手組みチャレンジ」は、DIY精神旺盛なサイクリストが陥りがちな、しかし非常に危険な落とし穴です。
この記事では、なぜアルテグラのような「完組ホイール」を「手組み」のベースにしてはいけないのか、専門家の見解を交えて徹底解説します。

「完組ホイール」の組み替えは、絶対にやめてください
「余った完組ホイールをバラし、ハブを替え、色付きのスポークで組み直したい」というアイデアは、非常に魅力的です。
しかし、この挑戦に対して、ホイール組の経験が豊富な専門家たちの答えは「絶対にやめたほうがいい」で一致しています。
それは、単に「難しいから」という理由だけではありません。「安全に走れるホイールが絶対に完成しないから」です。
危険な理由1
「完組」と「手組み」は根本的に設計思想が違う
まず理解すべきは、「完組ホイール(例:シマノ アルテグラ)」と「手組みホイール」は、似て非なるものだという点です。
完組ホイール(メーカー製)
- 専用設計のカタマリ: リム、ハブ、スポーク、ニップルが、すべて「そのモデル専用」に設計されています。
- 少ないスポークと高テンション: アルテグラ(F16本/R20本など)のように、スポーク本数を極端に少なくできるのは、専用設計のリムとハブ、そして特殊なスポーク(ストレートスポークなど)を使い、非常に高いテンション(張力)で組み上げることで剛性を確保しているからです。
手組みホイール(ショップやDIY)
- 汎用部品の組み合わせ: 一般的に流通している汎用のリム、ハブ、スポーク(Jベンドスポークと呼ばれる首の曲がったタイプ)を組み合わせて作ります。
- 多いスポークで剛性確保: スポーク本数は24本、28本、32本などが主流で、スポークの数を増やすことでホイール全体の剛性(頑丈さ)を確保します。
つまり、「完組」は専用部品による高張力システム、「手組み」は汎用部品による物量(スポーク本数)システムであり、両者に互換性はありません。
危険な理由2
「完組をバラして手組みする」が不可能な最大の理由がこれです。
- スポークが合わない
- アルテグラのような完組ホイールの多くは、スポークの頭が真っ直ぐな「ストレートスポーク」を採用しています。一方、手組みで一般的に使われるハブは、スポークの頭がJ字に曲がった「Jベンドスポーク」用に設計されています。この時点で、リムとハブが物理的に組み合いません。
- (仮に組めても)剛性が保てない
- これが最も危険な点です。アルテグラのリムは「16本や20本」という少ないスポークで性能を出すため、特殊な高テンションで張ることを前提に設計されています。
- しかし、手組み用のJベンドスポークは、ストレートスポークほどの高テンションで張ることはできません。もし、アルテグラのリム(16穴)に、Jベンド用のハブとスポークを無理やり組み合わせたとします。
- その結果、「超低テンションの、スポークが少ないホイール」が完成します。これは、走行中にヨレヨレになる(剛性不足)どころか、スポーク破断やリムの破損に直結する「走る凶器」となり、非常に危険です。
危険な理由3
リム自体に「手組みベース」としての魅力がない
「それでもリムだけ使いたい」と思うかもしれませんが、残念ながらアルテグラのリムには、手組みのベースとしてのメリットがありません。
- 重量が重い: 完組リムは専用設計ゆえに、単体では重いことが多いです(例:アルテグラリム約460g)。手組みで人気のリム(例:Kinlin XR-200 約385g)と比べると、重量的なメリットは皆無です。
- スポーク穴が少なすぎる: 16穴や20穴という穴数は、手組みの世界では「少なすぎ」ます。安全な手組みホイールを作るには、最低でも24穴、通常は28穴や32穴を選びます。
危険な理由4
少ないスポークの手組みは「達人」の領域
「32本組」のホイールであれば、専用工具(振れ取り台やセンターゲージ)さえ揃えれば、初心者でも時間をかければ形にすることは可能です。
しかし、「16本組」や「20本組」のホイールは、プロでも敬遠するほどの超高難易度です。わずかなスポークで全体のバランスを取る必要があり、初心者が手を出せば「まともに走らない、危険なホイール」しか出来上がりません。
結論:「手組み」に挑戦するなら、正しい道を選ぼう
今回の質問者(初心者)は、専門家からのアドバイスを受け、「危険そうなので辞めておきます。もっと慣れてからにします」と賢明な判断を下しました。
もし、あなたが「ホイールの手組み」に本気で挑戦したいなら、以下の「正しい道」を選んでください。
- 余った完組ホイールは「そのまま」売却する
- アルテグラのホイールセットは、中古でも需要があります。バラバラにするより、セットのまま売却しましょう。
- 売却した資金で「手組み用の部品」を揃える
- リム: Mavic Open Pro、DT Swiss R460、Kinlin XR-200 など
(24穴、28穴、32穴のいずれか) - ハブ: シマノ 105やアルテグラ(手組み用)、DT Swiss 350 など
- スポーク&ニップル: DT Swiss や Sapim などの定番品
- リム: Mavic Open Pro、DT Swiss R460、Kinlin XR-200 など
- 専用工具を揃え、教本や動画で学ぶ
- 振れ取り台、センターゲージ、スポークレンチは必須です。
この方法なら、安全で、勉強になり、長く使える「あなただけのオリジナルホイール」を完成させることができるでしょう。憧れの「手組み」は、急がば回れが正解です。

