完全ワイヤレス化を見送った新型デュラエース。海外メディアが指摘するメリットと懸念点
先日、プロチームのバイクに搭載された姿がスクープされた「新型デュラエース」。しかし、その姿を見た多くのサイクリストの反応は、「旧型とほとんど変わっていない」「SRAMは完全にワイヤレス化しているのに、なぜシマノは有線(セミワイヤレス)を残しているのか?」という、驚きや疑問の声でした。
ライバルのSRAMがロード・グラベル問わずコンポーネントの完全ワイヤレス化を推し進める中、シマノがあえてバッテリーとディレイラーを有線でつなぐシステムにこだわるのには、どのような理由があるのでしょうか。
本記事では、海外の自転車メディア『Cyclingnews』のテクニカルライターによる分析コラムをもとに、「完全ワイヤレス化」と「有線維持」、それぞれのメリット・デメリットを徹底検証します。
変速のキレ、バッテリーの持ち、エアロ効果から、メンテナンスの手間に至るまで、メカ好きのサイクリストなら一度は考えたことがある両陣営の違いについて、客観的な視点から考察します。
Cyclingnewsのコラム記事(テクニカルライター、ウィル・ジョーンズ氏による分析)をまとめました。
The new Shimano Dura-Ace still isn’t wireless, but does it actually matter? | Cyclingnews
新型デュラエースはなぜ「完全ワイヤレス」にならなかったのか
先週末、ブエルタ・ア・エスパーニャに出走するアルペシン・プレミアテックの選手の自転車に、新型シマノ・デュラエースが装着されているのが目撃され、Cyclingnews編集部がいち早くその情報をスクープしました。しかし、この新型に対する反応は決して熱狂的とは言えないものでした。多くのコメントで「旧型とほとんど変わらないように見える」という声が上がったのです。もっとも、これは現行デュラエースに対しても同様に言える指摘ではあります。
否定的な反応の中でも特に多かったのが、SRAMがロード・グラベル問わずパフォーマンスグレード全体を完全ワイヤレス化し、カンパニョーロもそれに追随しつつある中、シマノだけが今も「セミワイヤレス」構成にこだわっている、という点への指摘でした。最新のGRX(グラベル用)やXTR(MTB用)が完全ワイヤレスになっているだけに、この決定には驚きの声も少なくありませんでした。今回はこの論点について、Cyclingnews誌テクニカルライターのウィル・ジョーンズ氏による分析コラムをもとに、「完全ワイヤレス化しないことは、本当に問題なのか」を考えます。

- 新型デュラエースは、変速機同士は無線ながら、バッテリーとの接続には依然ワイヤーを使用する「セミワイヤレス」構成
- SRAMはロード用ディレイラーで満充電から約60時間のライド時間を公表
- シマノは走行時間ではなく「1,200〜1,500マイル(約1,930〜2,410km)」という走行距離で表記
- 筆者個人の結論としては「完全ワイヤレス化を見送ったのは判断ミスではないか」との見立て
「完全ワイヤレス化すべき」派の言い分
前回のデュラエース発売当時、シマノはコンポーネント市場で圧倒的な優位に立っており、SRAMは追う立場でした。しかし今、特に市場の下位グレードにおいては、その力関係はかなり逆転しつつあります。「バッテリーは1種類だけ、たまに家で充電すればいい」というシンプルな説明の方が、「バッテリーはダウンチューブかシートチューブの中にあり、シフターはリアディレイラー(頭脳的な役割を果たす)へワイヤレスで信号を送り、そのリアディレイラーはバッテリーとフロントディレイラーにワイヤーでつながっているので、充電の際はその場でバイクをコンセントにつなぐ必要がある」という説明より、消費者にとってはるかに分かりやすいのは間違いありません。

SRAMが「同一バッテリーを使い回せる」仕組みに特許を持っている点は承知の上で、カンパニョーロのように異なるバッテリーを使うシステムであっても、そちらの方が扱いやすいと筆者は言います。機械的なセットアップの手間という点でも、ブレーキケーブル・ホースの取り回しは面倒ですが、Di2のワイヤー取り回しの方がさらに厄介だと筆者は率直に述べています。もっとも、シマノのブレーキで使われるミネラルオイルはSRAMの嫌われがちなDOTフルードよりずっと扱いやすく、ホローテック式のクランクもSRAMのDUB規格よりずっと楽だと認めたうえで、こと「変速まわりのセットアップ」に関しては、SRAMに軍配が上がると分析しています。だからこそSRAMは、市場の下から着実にシェアを広げているのではないか、というのが筆者の見立てです。
バイクメーカー側にとっても、完全ワイヤレス化には利点があります。バッテリーがすべて外付けになれば、チェーンステーに配線用のポートを設ける必要がなくなり、わずかながらコスト削減にもつながります。近年、シートポストのバッテリー配置がシートチューブの細身化・複雑化に伴ってダウンチューブ基部へと移り変わってきた「置き場所問題」も、完全ワイヤレスであれば解消されます。多くのブランドが、完全ワイヤレス化を密かに期待していたのではないか、と筆者は推測しています。
見た目のすっきり感も見逃せません。チェーンステーから飛び出すワイヤーがなくなれば見た目がすっきりするだけでなく、落車時に配線が引っかかるリスクもわずかに減らせます。各レースのテックギャラリーを見ても、後付けのダイレクトマウント・ディレイラーハンガーや、チューブの切れ端・結束バンドを駆使した丁寧な配線処理がほぼ必ず見られますが、これらはすべて緊急時にもシステム全体がつながった状態を保つための工夫であり、完全ワイヤレスであればそもそも不要な手間だと指摘されています。
「有線を残すべき」派の言い分
公平を期すため、逆の立場からの主張も見てみましょう。SRAMはロード用ディレイラーについて、満充電からおよそ60時間のライド時間を公称しています。一方シマノは走行時間の目安を公表しておらず、公式サイトによれば満充電で1,200〜1,500マイル(約1,930〜2,410km)走行できるとされています。
- SRAM(ロード用ディレイラー):満充電から約60時間のライド時間
- シマノ:走行距離での目安表記、満充電で約1,930〜2,410km
- 結論:シマノの方が長持ちする傾向はあるが、想定していたほどの圧倒的な差ではない
有線システムを維持するメリットとして、バッテリーをフレーム内に格納できる点が挙げられます。うまく配置すれば(前述の通り、近年はダウンチューブ基部が定番)、重量配分や重心の面でプラスに働く可能性があります。全体で見ればごくわずかな差ではあるものの、ボトムブラケット付近に重量が集中することは、ハンドリング面でも純粋にメリットになるだろうと筆者は分析しています。

コメント欄では、シマノのシステムの方が変速(特にフロント)が速いという指摘も見られますが、これは有線・無線の違いによるものではなく、内部プロトコルの違いによるものだと筆者は説明します。SRAMのシフターは、もう片方のパドルも同時に押してフロントディレイラーを操作しようとしているかどうかを判定するために、わずかながら遅延が生じる仕組みになっている一方、シマノのシステムは即座に反応するとのことです。
最後の論点は主に見た目の話ですが、性能面にも関わってきます。フロント・リア両方のディレイラーにバッテリーを搭載しない設計により、ディレイラー自体を小型化できます。小型であることは空力面で有利であり、見る人によっては見た目の面でも好ましく映るとされます(もっとも、SRAMの「XPLR」系ディレイラーの、ある種の存在感あるボリューム感を好むファンがいるのも事実です)。フロントディレイラーが小型であれば、理論上は1x化(前1枚構成)への切り替えを迫られる前に、リアにより幅広いタイヤを装着できる余地も生まれます。この点についてSRAM支持者からは「1×13速にすればいいだけで、それで十分」という反論も出そうですが、筆者個人としては、従来型の2x構成による小刻みなギア比の方が好みだといいます。
筆者自身は、結局どちらを支持するのか
ここまで両論併記に努めてきましたが、いい加減その立場も苦しくなってきたところで、筆者はここで弁護人から一転、判事の役を引き受けると宣言します。結論として、今回の新型デュラエース(これが最終形だとすれば)が完全ワイヤレス化を見送ったのは、判断ミスだったのではないかというのが筆者の見立てです。
バッテリー持続時間のわずかな向上や、ディレイラーの小型化といったメリットが、真の完全ワイヤレスシステムによって得られるはずの「使いやすさ」「扱いやすさ」の向上分を、十分に埋め合わせているとは思えないというのがその理由です。もっとも筆者は、ワークショップでの整備という観点ではシマノのバイクを扱う方がずっと好きだとも述べています。ブレーキのエア抜きも塗装を心配せず気軽にでき、クランクの取り外しも一瞬、チェーンリングの交換も簡単。カセットとロックリングが分かれている構造も、一体型よりロックリングの誤装着が起きにくいという点で好みだといいます。
配線の手間は「あるある」の悩み
とはいえ、バイク組み立ての際にワイヤーが厄介であることは事実で、シートポストの底からバッテリーが抜け落ちてしまい、それを釣り上げるように取り出す羽目になるのは非常にイライラする作業だと筆者は明かします。もっとも、これらはいずれも簡単に解決できる問題ではある、とも付け加えています。
デュラエース単体への影響以上に、筆者が懸念しているのはその「波及効果」です。もしシマノが下位グレード ― 特に105クラス ― でも無線化を見送るようなことがあれば、消費者の目には「より複雑」で「時代遅れ」なシステムと映りかねません。それが結果として、次のグレードアップのタイミングで新しいサイクリストたちをSRAM陣営に引き寄せ、そのままSRAMのエコシステムに囲い込まれてしまう流れを後押ししかねない、というのが筆者の懸念です。
それでも、路上でのデュラエースのパフォーマンス自体には疑いの余地がないと筆者は付け加えます。現行モデルも、筆者の見立てでは今なおSRAMより変速のキレが良いとのこと。しかし、コンポーネント全体としての完成度は、変速フィーリングの良さだけで測れるものではない ― それが今回のコラムの結論です。
まとめ
完全ワイヤレス化を見送った新型デュラエースの評価は、まさに賛否が分かれるテーマです。使いやすさ・見た目を重視する立場からは「時代に取り残されている」との指摘がある一方、整備のしやすさやバッテリー持続時間、変速フィーリングといった実利面では、依然として有線構成ならではの強みも残っています。今後、105クラスなど下位グレードがどちらの方向に進むのか、業界全体の行方にも注目が集まります。
- Will Jones, “The new Shimano Dura-Ace still isn’t wireless, but does it actually matter?”, Cyclingnews, 2026年8月26日
