エアロロードの進化は限界なのか?風洞実験の専門家が指摘する「真の伸びしろ」

みぞお
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2000年代初頭のロードバイクといえば、細身の丸パイプフレームが当たり前の時代でした。しかし現代のレースシーンでは、空力性能を極限まで追求した奇抜なフォルムのエアロロードが主流となっています。

各メーカーがしのぎを削る空力開発ですが、業界内では「フレーム単体のエアロ進化はすでに限界(ピーク)に達しているのではないか」という指摘も存在します。

本記事では、英『Cycling Weekly』に掲載された風洞実験専門家によるコラムをもとに、エアロロードバイクに残された「真の伸びしろ」について考察します。

  • フレーム単体の数値と「人間が乗った状態」での空気抵抗の逆転
  • 30mm幅の太いタイヤやショートクランク化がフレーム設計に与える影響
  • サイクリストが捨てきれない「軽さ(重量)」への心理的なこだわり

「軽量・エアロ統合型」へのシフトや、トラック競技由来の最新デザインなど、今後の機材選びやトレンドを読み解くための海外の最新知見をご紹介します。

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風洞実験の専門家が語る、次の一手

ワールドツアーのピットエリアを覗けば、そこには奇抜なフォルムのエアロロードバイクが所狭しと並んでいます。タデイ・ポガチャル選手(UAEチームエミレーツ-XRG)は、軽量バイク「V5Rs」をチームカーに残し、もっぱらエアロバイク「コルナゴY1Rs」で数々のレースを制してきました。中でも一際目を引くのが、UCI規定ぎりぎりとも言われる新しいジオメトリーと幅広フォークを採用したFactor社の「One」です。

一方でスペシャライズドの「Tarmac」、キャノンデールの「SuperSix Evo」、トレックの「Madone」のように、軽量モデルとエアロモデルを統合し「1台で全てをこなす」設計へ舵を切るブランドも増えています。それでもなお、エアロバイクという存在自体はこれからも生き残り続けそうです。しかもその見た目は、これまで以上に奇抜で個性的になってきています。今回は、シルバーストーン・スポーツ・エンジニアリング・ハブで風洞実験オペレーター/パフォーマンスコンサルタントを務めるアンディ・ターナー氏の分析コラムをもとに、「本当にまだ伸びしろがあるのか」を考えます。

この記事のポイント
  • フレーム単体のエアロ性能と、「選手が乗った状態」での性能は必ずしも一致しない
  • タイヤの太さ・クランク長の変化に、フレーム設計が追いついていない可能性
  • トラック競技の技術が、BMCなどロードバイクの新型デザインに流用され始めている
  • 「軽さ」への心理的なこだわりが、真のエアロ性能追求の足かせになっている面も

あいまいな「ワット数」の宣伝文句にご用心

自転車業界には、テスト方法や技術資料の内容があいまいなまま公表されるという、やや困った慣習があります。「従来モデル比」あるいは「主要競合比」といった形で「何ワット節約できるか」が語られることは多いものの、使用したホイールやタイヤ、ハンドル幅やジオメトリー設定、そもそも実際に選手が乗った状態でのテストだったのかどうかまで明記されるケースは限られています。

姉妹サイトCyclingnewsがここ数年、風洞でのバイクテストを重ねてきた中で見えてきた傾向があります。それは、フレーム単体では速い(あるいは遅い)結果が出ても、実際に選手が乗った状態では、その順位が入れ替わることが珍しくないという点です。フレーム単体では振るわなかったモデルが、選手が乗ると大きく速くなるケースもあれば、逆にフレーム単体では好成績でも、選手が乗ると順位を落とすケースもあります。

なぜ「選手が乗る」ことでこれほど結果が変わるのか

その理由は、サイクリストの脚が、フレームとホイールを合わせたよりも大きな前面投影面積を作り出す、2本の大きなピストンのような存在だからです。そこに上半身まで加わることで、全体の空気抵抗は劇的に増加します。フレームだけを比較した際の性能差が、選手が乗った状態ではぐっと縮まりやすいのはこのためです。バイク全体の空気抵抗に占める「フレーム由来」の割合がそもそも小さいこと、さらにフレームの一部の空力的な工夫が、両脇に脚が加わった途端にほぼ意味をなさなくなってしまうことも影響しています。

業界もこの点に注目し始めています。例えば最新モデル「スペシャライズド・Tarmac SL9」の開発では、脚が動くマネキンを使ったテストが設計プロセスに組み込まれました。フレーム単体でのエアロ性能向上は、すでに「取りやすい果実」を摘み尽くしつつあるのかもしれません。だとすれば、次に伸びしろがあるのは、選手が乗った状態を前提としたフレーム設計だという見方が強まっています。

太いタイヤ、短いクランク ― 変化に追いついていない設計

近年当たり前になった、しかしエアロを考えるうえで見落とされがちな要素が「タイヤの太さ」です。かつては19〜21mm幅が主流でしたが、現在は30mm、リムの幅次第では実測32mmに達するタイヤも珍しくありません。ホイール径自体は変わっていないため、これらの太いタイヤはバイク全体の高さと、ホイールの円周をわずかに増加させています。

クランクの短縮化も同様の影響を及ぼしています。股関節の角度を開くために短いクランクを使う場合、ペダルストロークの下死点で同じ脚の伸展量を得るには、サドル高を上げる必要があります。これにより重心と前面投影面積がわずかに上がり、結果として空気抵抗も増加します。

この10年ほどで変化した数値
  • タイヤ幅:19mm前後 → 32mm前後
  • クランク長:175mm前後 → 165mm前後

ロードフレームの基本設計自体は、この間さほど大きく変わっていません。つまり、こうした変化を織り込んだエアロフレーム設計には、まだ明確な伸びしろが残されているといえます。例えば、短いクランクに合わせてボトムブラケットの位置を下げるといった対応は、今後フレームメーカーが進めていく可能性の高い方向性の一つとして挙げられています。

先を行くトラック競技の技術

空力面の技術革新において先頭を走っているのが、トラック競技です。個人種目やチームパーシュートのような少人数種目では、選手が克服すべき抵抗の大部分を空気抵抗が占めるため、この分野の知見が特に蓄積されています。

例えばFactor社は、2024年パリ五輪の男子チームパーシュートでオーストラリア代表を金メダルに導いたトラックバイクのデザインを、ロード用の「One」にも応用しています。また、ステファン・キュング選手らチューダー・プロサイクリングの選手たちが使用する最新のBMCタイムトライアルバイクも、英国代表チームが使用するHope製トラックバイクといくつかのデザイン要素を共有しています。

BMCの新型タイムマシンに見る「選手前提」の設計

エアロバイクが登場した当初、多くのブランドはシートステーを低い位置に下げる設計を採用しました。これはフレーム単体での前面投影面積・抵抗を減らす効果がありますが、選手が乗った状態ではその差は縮まります。BMCの新型「Timemachine」はあえてシートステーの位置を高くし、さらに深く、前方まで延長したエアロフォイル形状を採用。これにより、選手の脚から後方へ流れる気流をスムーズにし、背後に生じる乱流性の圧力抵抗を減らす狙いがあるとされています。

コックピット(ハンドル・ステム)のカスタマイズも進んでいます。トラックやタイムトライアル種目ではすでに一般的でしたが、ロードバイクのセッティングもより個人に合わせた形へと変化してきています。市販モデルのチェルヴェロ「S5」は一体型のハンドル・ステムを採用していますが、実際にプロ選手が使用しているものは、市販品と全体のデザインこそ同じでも、ステム長・ハンドル幅・ステム角度が選手ごとにオーダーメイドされたものになっています。

「用途」に合わせた設計の重要性

トラックやタイムトライアル用のバイクがロードバイク設計に影響を与える一方で、これらは通常、時速60〜70km前後という高く安定した速度域を想定して設計されています。時速40〜50km程度が中心となるロードレース、ましてやワールドツアーの登坂速度では、同じ設計が相対的に同じだけ速いとは限りません。

これは、選手がレースの想定平均速度に応じて専用のスキンスーツを使い分けるのと同じ理屈です。トラックやタイムトライアル向けに適した設計が、そのままロードレース、ましてや一般市販モデルに適しているとは限りません。

実際の乗り味という観点も無視できません。筆者は、革新的なコルナゴ「Y1Rs」と、より伝統的なチェルヴェロ「S5」を比較しています。コルナゴはフロント周りのハンドリングの繊細さ・ダイレクト感でやや劣り、リア周りの快適性もS5には及ばないとのこと。S5については実際にテストを行い、必要な箇所での剛性と快適性を兼ね備えた、非常にバランスの取れたレースバイクだったと評価しています。基本設計自体はここ10年ほど大きくは変わっていないものの、モデルごとに選手からのフィードバックを反映した改良が重ねられてきました。

一方Factor「One」がプロレベルであまり使われていない理由の一つは、その設計上の選択ゆえに、汎用性の面でやや欠ける点にあるとみられています。実際にテストを行った同誌テクニカルエディターは、高速域では圧倒的な速さを発揮する一方、長時間のライドにおける快適性についてはあまり芳しくない評価も耳にしているとのことです。低速域や集団走行時など、風向きが変わりやすい状況ではやや不安定になりやすいとの指摘もあります。専門的な設計としては称賛に値するものの、純粋なエアロ性能と、終日快適に乗れるバランスとの両立には、まだ改良の余地がありそうです。

「軽さ」への執着が、真のエアロ性能を妨げている?

エアロフレームの設計は、「軽さ」への強いこだわりによって、しばしば足を引っ張られています。新型ジャイアント「Propel」、メリダ「Reacto」、そしてトレック・スペシャライズドが進めている「オールインワン型」バイクを見ると、一部メーカーは今もなお、総合的な空力効率よりも軽量化を優先していることが分かります。結果として、UCI規定の重量制限6.8kg(市販モデルではそれを下回ることも)を達成するために、エアロ性能がやや妥協された設計になっているケースもあります。

「体感できる差」と「体感できない差」

速度が一定であれば、多少重くてもエアロバイクの方が「速い」のは事実です。長い登り区間で多少の加速を挟んだとしても、特にワールドツアーレベルでは500g程度の重量差がエアロバイクの足を大きく引っ張ることはありません。しかし、500g軽いバイクと、5ワット分空気抵抗が少ないフレームとの間には、明確な違いがあります。心理的には、私たちは重量の差を「感じる」ことができますが、ワット数の差は感じ取れません。

筆者自身も、軽量バイクの方が乗っていて「楽しい」と感じるといいます。軽やかで、体感的な加速も良く、機敏で楽に走れる感覚があるとのこと。かつてタイムトライアルバイクで時速40kmのエンデュランスライドをトレーニングしていた際、間違いなくそちらの方が速いにもかかわらず、加速や登り・下りでは鈍く感じられたという経験も明かしています。時速30kmと32kmの違いは体感できなくても、ボトルを1本外すだけで「乗り味が良くなった」と感じる ― それだけ、重量には心理的な影響力があるということです。

まとめ ― 次の一手はどこにあるのか

奇抜で個性的なエアロバイクのデザインが次々と登場している一方で、これまでの技術・機材の進化を踏まえると、まだ「行き着くところまで行っていない」というのが筆者の見立てです。トラック競技由来の技術や、選手・フレーム双方を前提にした設計が今後ますます取り入れられていくとみられますが、太いタイヤや短いクランクに対応した新しいフレーム設計こそ、最も興味深い方向性かもしれません。

もちろん、それだけで「良いバイク」が決まるわけではありません。次世代の革新的なエアロバイクは、風洞でのデータだけでなく、乗り心地そのものを改良する形での進化になる可能性が高いといえます。それでも、体感できる「軽さ」の魅力と、体感しにくいが確実に効果のある「空力性能」との間の綱引きは、これからも自転車設計につきまとい続けそうです。

出典

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ABOUT ME
みぞお
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おっさんサイクリスト
関西在住の自転車DIY愛好家。 「自転車組立はプラモデルみたいで面白そう」という直感をきっかけに、ロードバイクの世界へ。 現在は、自転車の組立(バラ完)・メンテナンス情報のほか、10年以上続くフェリー輪行旅の記録、さらに家電修理などのライフハックも発信中。 「自分の手で直して楽しむ」をモットーに、初心者でも真似できる等身大のDIY記録を綴っています。
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