ポガチャル落車は来季計画も複雑にするか。元王者ショーン・ケリーが占うブエルタの行方
ブエルタ・ア・エスパーニャ第8ステージにおけるタデイ・ポガチャル選手の落車と途中棄権は、レースの展開だけでなく、今後のロードレース界のスケジュールにも影響を及ぼす出来事となりました。
本記事では、1988年のブエルタ王者であるショーン・ケリー氏が海外自転車メディア『Cyclingnews』に寄稿した分析コラムをご紹介します。
同氏は、今回の複雑な怪我が世界選手権やイル・ロンバルディアといった今季終盤の目標だけでなく、来シーズンのスケジュール構築をも困難にする可能性があると指摘しています。また、卓越したバイクコントロールを持つポガチャル選手がなぜ落車に至ったのかという考察や、絶対的な本命が不在となったことで上位選手による大混戦へと様変わりしたブエルタの総合優勝(GC)争いの行方についても詳しく語られています。
レジェンド選手ならではの視点から、今回の落車がもたらした多角的な影響を読み解きます。
Cyclingnewsのコラム(1988年ブエルタ王者ショーン・ケリー氏執筆)をまとめました。
ポガチャルの落車が突きつける「来季への影響」
1988年ブエルタ・ア・エスパーニャ王者、ショーン・ケリー氏がコラムを寄稿した。ポガチャル選手が土曜(第8ステージ)にブエルタを途中棄権に至った一件は、今シーズンそのものの終わりを意味するかもしれないという。鎖骨の手術はすでに終えているが、頸椎の骨折を伴う今回のケースは、通常であればプロ選手にとって「2週間で復帰できる」単純な鎖骨骨折よりも、はるかに複雑な回復プロセスになる可能性があるとケリー氏は指摘している。

- ケリー氏の見立てでは、モントリオール世界選手権・母国スロベニアでの欧州選手権・史上初のイル・ロンバルディア6勝は、いずれも困難になる可能性がある
- 落車の原因は「ハンドリングのミス」ではなく、単なる不運と分析
- 今回とルイエ〜バストーニュ〜リエージュ2023年の落車を除けば、深刻な骨折を負った経験はほぼない
- ポガチャル不在のブエルタは、GC上位6〜7名による大接戦の様相に
回復の見通しは「数週間単位」か
ケリー氏によれば、UAEチームエミレーツ-XRGの選手が退院し、状態がより明確になるまで確実なことは分からないとしつつも、周囲の情報や状況を見る限り、回復には数週間を要する可能性があるという。これにより、シーズン終盤の主要目標だったモントリオール世界選手権、母国スロベニアでの欧州選手権、そして史上初となる6勝目がかかるイル・ロンバルディアへの出場は、いずれも難しくなるかもしれないと分析している。土曜の落車が、事実上今シーズンの終わりを告げるものになった可能性もあるとケリー氏は綴っている。
ケリー氏は、他の選手たちの中にも今回の一件を受けて「これで虹色のジャージを獲るチャンスが大きく広がった」と心の中で思っている者は少なくないだろう、と皮肉交じりに綴っている。
ケリー氏が特に強調しているのが、ポガチャル選手にとって世界選手権3連覇やロンバルディアの記録更新以上に悔やまれるのは、いまだキャリアに欠けている「ブエルタの赤いジャージ」を今年こそ手にするはずだったという点だ。この目標は達成されないまま持ち越しとなり、いつスペインのグランツールに再挑戦するかという新たな課題を抱えることになる。あらゆるタイトルを制覇したいと考えるタイプの王者であるだけに、来シーズンの計画はさらに複雑なものになるだろうとケリー氏は見ている。
「ハンドリングのミスではなく、単なる不運」
落車の状況を詳しく見ると、原因は路上の小さな石ころ一つだったとみられ、前方に何があるか分かりようがなかった、とケリー氏は分析する。ヴィスマ・リースアバイクの選手たちに接触しながらバイクから投げ出される形になった際に、ハンドルから手が離れてしまったのではないかと推測しており、これは単なる不運としか言いようがないという。
ポガチャル選手のバイクハンドリング歴
ケリー氏は、優れたバイクハンドリングこそがポガチャル選手の数ある長所の一つであり、これまでバランスを崩した場面は片手で数えられるほどしかないと評価している。今回のような深刻な骨折を負ったのは、2023年リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで手首を骨折した際とこの2例のみだという。いずれも不運な出来事ではあるものの、落車を避けてきた実績は運によるものではなく、生まれ持った卓越したバイクハンドリング能力によるものだとケリー氏は説明する。集団での下り、強風下、平坦ステージでのエシュロン(横陣形での攻防)など、あらゆる局面でその実力は幾度となく証明されてきたといい、「弱点がない」というのがケリー氏の一貫した評価だ。
昨年のパリ〜ルーベやストラーデ・ビアンケでコーナーに突っ込みすぎて危ない場面があった際も、結局は無傷で切り抜けている。今年のミラノ〜サンレモでの落車についても、ハンドリングの問題ではなく、純粋にレースにつきものの出来事だったとケリー氏は位置づけている。
今回の一件について、ポガチャル選手自身が病室で悔しさを噛み締めているだろう、なぜなら自分にはどうしようもなかった出来事だったからだ、とケリー氏は綴っている。唯一の救いは、これがツール・ド・フランス本番やその準備期間ではなく、このタイミングで起きたという点だという。総合3位や5位を狙うような選手であれば、途中棄権もそれほど大きな痛手にはならなかったかもしれない。しかしポガチャル選手のように、赤いジャージを着てグラナダへ悠々と向かっていた状況、しかも好条件の世界選手権コースを控えていた状況を踏まえれば、今回の一件は大きな失望に違いない。それでも、もっと悪い結末もあり得ただけに、不幸中の幸いな面もある、というのがケリー氏の見立てだ。
ポガチャル不在のブエルタ、6〜7人の総合優勝候補による混戦へ
ポガチャル選手を欠いたブエルタについて、日曜(第9ステージ)の山岳ステージのレース内容は素晴らしかったとケリー氏は振り返る。最後の2kmまで結末が分からない、緊張感のある展開が続いたという。ケリー氏は、もしポガチャル選手がまだレースにいたら、おそらく残り4〜5km、あるいはそれ以上手前の時点で集団から独走で抜け出し、2番手に40秒差をつけてフィニッシュし、サスペンスをすべて奪ってしまっていただろうと述べている。ポガチャル選手がこうした場面で見せる走りは紛れもなく素晴らしいものだが、レースとしての面白さという意味では、日曜のような展開や、今週控える山頂フィニッシュの方が、通常よりもずっと盛り上がりのある内容になりそうだという。
総合優勝候補として名前が挙がる選手たち(ケリー氏の分析)
- エンリク・マス(モビスター、現マイヨロホ)
- これまで「アタックはせず追走に徹するタイプ」と見ていたが、リーダージャージを背負いながらも見事な走りを披露
- リチャード・カラパス
- ツール・ド・フランスからの好調を持ち越して参戦、山岳での強さは脅威だが、最終週の疲労蓄積が懸念材料
- プリモシュ・ロブリッチ(4度のブエルタ王者)
- 個人タイムトライアルまで現在の順位を維持できれば大きな脅威に。今大会前のレース出走数は30日未満だったといい、投資に見合う結果を出せていないとの声も一部にあったが、グランツールタイトルを獲得すればそうした評価も一変するはずとケリー氏
- オスカー・オンレー(ネットカンパニー・イネオス)
- ロブリッチ選手同様、今シーズンは負傷に見舞われてきたが、その分ブエルタでの総合成績に照準を絞った結果、日曜の好走につながった。レースが進むにつれさらに調子を上げる可能性
残り2週間、大きな山岳ステージが両週に控える中、今大会はここまで以上に戦術的な駆け引きが求められる、興味深い展開になりそうだとケリー氏は締めくくっている。
まとめ
以前の記事でお伝えしたポガチャル選手の負傷詳細・専門医の見立てに続き、今回は元王者ショーン・ケリー氏の視点から、今回の一件がシーズン終盤の目標だけでなく来季の計画にまで影響を及ぼしかねないという分析が示された。一方でポガチャル不在のブエルタは、上位6〜7名による見ごたえのある混戦へと様変わりしている。総合優勝の行方、そしてポガチャル選手自身の回復状況について、続報が入り次第お伝えする。
- Sean Kelly, “Pogačar’s crash doesn’t just put his Worlds defence in doubt, it complicates next season’s plans – Sean Kelly’s Vuelta column”, Cyclingnews, 2026年9月1日
