ライド中の「きつい」は呼吸で変わる。パフォーマンスを劇的に上げる呼吸改善トレーニング
ヒルクライムの途中で息が上がり、ペダルを回すのがどうしようもなく「きつい」と感じた経験はありませんか? 私たちは運動のエネルギー源として常に酸素を必要としていますが、呼吸はあまりに無意識な動作であるため、その「質」を気にかけるサイクリストは意外と少ないものです。
本記事では、海外の自転車専門メディア『BikeRadar』に掲載された呼吸コーチによる「サイクリストのための呼吸改善ガイド」をまとめました。
肺の奥深くを使う横隔膜の意識から、前傾姿勢特有の呼吸の癖を直すトレーニング、さらにはリカバリーを早める呼吸法まで。少しの意識でライドの疲労感を軽減し、パフォーマンスを向上させる10の実践的なアプローチを分かりやすく解説します。
BikeRadarの呼吸改善ガイドをまとめした。
Cycling and breathing: 10 way to improve your breathing for cycling | BikeRadar
ライドで「息が上がる」を減らす

人は1日に1万7,000〜2万9,000回も呼吸している。運動のエネルギー源は酸素なのに、呼吸はあまりに本能的な動作なので、正しい技術を意識することはほとんどない。しかも私たちは、肺の容量のごく一部しか使えていない。
呼吸コーチのトーマス・ヘイグ氏は、体の中でも特に強力な仕組みである呼吸を使いこなせれば、サイクリングに大きな違いが生まれると話す。呼吸が上手くなれば、同じ強度でも「きつさ」を感じにくくなり、より長く、より強く走れるという考え方だ。英BikeRadar誌に掲載された、ヘイグ氏による10の実践ポイントをまとめた。
- 基本は「鼻から、長く、ゆっくり、深く」。横隔膜を使い、肺の深い部分まで空気を届ける
- 前傾姿勢のバイク上では横隔膜が圧迫されるため、低強度の鼻呼吸練習とチャイルドポーズが有効
- CO₂耐性を高めるために、BOLTスコア(息止めの持続時間)を目安にする
- ペダルの回転数と呼吸を結びつけてリズムを作る、走行後に10分以上かけて呼吸を整えるなど、実戦で使えるコツも紹介
1. 長く、ゆっくり、深い呼吸を練習する

まず取り組みたいのが、鼻からの長くゆっくりした深呼吸だ。意識するのは「お腹の奥」。ヘイグ氏によれば、呼吸の主役である筋肉・横隔膜はそこにあり、うまく使えば肺の奥深くまで最大限の酸素を取り込めるという。
鼻で息を吸うと横隔膜が収縮し、空気が肺のより深い部分まで引き込まれる。そこは血液と肺胞(酸素を血流に受け渡す小さな袋)がもっとも多い場所だとヘイグ氏は説明する。
2. 日常から呼吸の習慣を整える

バイク上での呼吸は、普段の呼吸習慣の延長にある。車の運転中や犬の散歩中など、日常の場面で自分がどう呼吸しているかを観察するのが出発点になる。
- 姿勢は上体を起こし、ニュートラルに保つ
- 軽く、ゆっくり、深い呼吸を意識して、呼吸数を下げる
- 口呼吸は基本的に避ける。口を使うのは、高強度のゾーンで空気をより多く取り込みたい時に限る
3. バイク上に特化した呼吸を練習する

日常の呼吸が整ってきたら、次はバイクの上での呼吸だ。前傾姿勢では呼吸の主役である横隔膜の動きが制限される。そこでヘイグ氏は、低強度のトレーニングで「鼻呼吸のみ」を徹底することを勧めている。これにより、サイクリング特有の姿勢でも酸素を届けやすくなるという。
4. 「子ども」のように呼吸する(チャイルドポーズ)

ヨガの「チャイルドポーズ(子どものポーズ)」も、バイク上での呼吸改善に役立つ。前かがみの姿勢では、空気が頭の後ろ、耳の方向に入ってしまいがちだが、本来は横隔膜の深部まで引き込む必要がある、とヘイグ氏は言う。
チャイルドポーズでの練習方法
膝をついてお尻をかかとに乗せ、両腕を前に伸ばして額を床につける。この「呼吸しにくい姿勢」の中で呼吸を練習する。慣れてきたら背中に本のような軽い重りを乗せ、息を吸うと背中が持ち上がり、吐くと沈むのを感じ取る。
5. 横隔膜を鍛える
横隔膜は、姿勢改善や体幹トレーニングなどのモビリティ(可動性)ワークで強化できる。こうした動きは、肺活量や、横隔膜まわりの肋間筋の動きも高めてくれるとヘイグ氏は述べている。
6. CO₂耐性を高める
二酸化炭素(CO₂)にうまく対処できるほど、呼吸の効率は上がる。CO₂耐性が高ければ、細胞への酸素供給が増えてエネルギーが生まれやすくなり、長く強く走れるようになるという。
- 測り方:息を吐いた後に呼吸を止め、「はっきりと息をしたいと感じた最初の瞬間」までの秒数がBOLTスコア
- 目標:まず25秒超え、できれば40秒超え
- 練習法:歩きながら、息を吸って吐いたあとに10〜15歩ぶん息を止める。慣れてきたら30〜100歩を目指す
7. レース当日の緊張を和らげる
同じ方法は、レース前の緊張を抑えるのにも使える。パフォーマンス不安を抱える人は呼吸が速くなり、口が開きがちだとヘイグ氏は指摘する。そこで呼吸をゆっくりにし、軽い息止めで「休息・消化」モードを促す。具体的には、息を吐いたあとに歩きながら10〜15歩ぶん息を止め、呼吸を落ち着かせる。
8. 自分の「フロー」を見つける

平坦路を走る時は、自分にとって最も調子の良い呼吸の「フロー状態」を探る。ペダルの回転と呼吸を結びつけるのがコツだ。例えば、6回転かけて息を吸い、6回転かけて吐くというように、一定のリズムで呼吸しながら走る。そのリズムに身を委ねることで、安定した走りにつながる。
9. 回復を早める

呼吸のコントロールは、トレーニング後の回復も高める。呼吸は心拍数と直接関係しており(呼吸性洞性不整脈と呼ばれる現象)、息を吸うと心拍数が上がり、吐くと下がる。吐く息を長くすることで心拍数が下がり、「休息・消化」の状態に入りやすくなるとヘイグ氏は説明する。
走行後の呼吸の整え方
呼吸数を減らし、軽く、ゆっくり、深い呼吸を意識して、吐く息を長めにとる。これで心拍数が落ち着き、回復が促される。各ワークアウトの後に、最低10分間はこのようにクールダウンするのが目安だ。
10. レース中の立て直し

坂の頂上で息が上がるのは、肺と血中のCO₂濃度が高まっているためで、これが呼吸を促す最大の要因だとヘイグ氏は説明する。
対処法は、鼻から大きく息を吸い込み、その後、腹斜筋が引き締まるまで力強く吐き切ること。これを2〜3回繰り返せば、呼吸はすぐに落ち着いた状態に戻るという。
まとめ
呼吸は、トレーニングで磨ける技術だ。まず日常の呼吸から見直し、バイク上、そして練習やレースの場面へと広げていくことで、「同じ強度でも楽に感じる」状態に近づける。特別な道具は必要なく、今日から始められるものばかりだ。
- Mark Bailey, “10 ways to improve your lung performance for cycling, according to a breathing coach”, BikeRadar, 2024年8月初出・2026年10月更新
※本記事は一般的なトレーニング情報の紹介を目的としたものであり、医学的な診断や治療の代替になるものではありません。息止めの練習は、元記事では歩行中に行う方法として紹介されています。走行中や水中などでは行わないでください。苦しさやめまいを感じた場合はすぐに中止し、持病のある方や不安のある方は、事前に医師にご相談ください。
