グラベル世界選手権で浮き彫りになる支援格差。プロ選手が直面する自己負担の壁
オーストラリアで開催されるUCIグラベル世界選手権において、出場するプロ選手たちが直面している厳しい現実が海外メディアで報じられています。
2022年の創設以来、急速に人気を集めるグラベル競技ですが、多くの選手がオーストラリアまでの高額な渡航費だけでなく、レース中の着用が義務付けられているナショナルキット(代表ウェア)までも自費で購入しなければならない状況にあります。
本記事では、海外自転車メディア『Cyclingnews』の報道をもとに、英国や米国、ベルギーなど各国代表選手の実情と、非五輪種目ゆえに連盟からの支援が乏しいという業界の課題について客観的に解説します。
世界選手権、遠征費もナショナルキットも「自腹」

今週末、西オーストラリア州ナナップで開催されるUCIグラベル世界選手権。大会に向かうプロ選手たちの中には、渡航費を自分で負担するだけでなく、代表ウェアまで自費で購入しなければならない選手が少なくない。
2022年に創設されたUCIグラベル世界選手権と、シーズンを通じて開催されるワールドシリーズによって、かつては「異端」だったこの種目も、より主流のスポーツとして位置づけられるようになった。しかしヨーロッパ以外で初めて開催される今回の大会では、多くの国の連盟が選手に十分なサポートを提供していない。
- 前回覇者のフロリアン・フェルメルシュ(ベルギー)も、渡航費は自己負担
- 英国代表選手は、ジャージ約13,000円、レーススーツ約25,900円を自費で購入する必要がある
- 米国代表は連盟の選考基準で「費用はすべて選手本人の責任」と明記されている
- オランダは宿泊と(使い回しの)ウェアを提供、ただし渡航費は選手負担
- オーストラリア・ベルギー・英国の連盟は、五輪種目と非五輪種目で支援に差を設けている
※金額は英国での参考価格(ジャージ60ポンド、レーススーツ120ポンド)をもとに、2026年10月時点のレート(1ポンド=約216円)で円換算した参考値です。
選考の仕組み ― 国別代表は「名ばかり」の面も
出場資格は主にワールドシリーズ各戦での順位によって決まり、各国の連盟が厳密に選手を選考する仕組みにはなっていない。各国連盟は10名の選手を推薦でき、ナショナルチャンピオンには自動的に出場権が与えられる。しかし、連盟から選ばれた選手であっても、実際には支援を受けられないケースが多いという。
前回覇者フェルメルシュ選手も「自分で手配」
UAEチームエミレーツ-XRGに所属し、ロードではチームの一員として走るフロリアン・フェルメルシュ選手(ベルギー、前回大会の男子覇者)も、その一人だ。ベルギー公共放送Sporzaの取材に対し、次のように話している。
「これは自分で手配しなければならない遠征。自転車連盟からのサポートはない」とフェルメルシュ選手。「ナショナルチームの一員として走るけれど、(ロードの)所属チームが時間と余裕を与えてくれていることには感謝している。機材はチームから提供してもらい、航空券は自分で支払う。でも、その投資をする覚悟はできている」。
英国代表は「ナショナルキットを自費購入」
英国では、昨年ブリティッシュ・サイクリングが全英グラベル選手権の運営をRedOn Sportsから引き継ぎ、国内のエリート選手に「グラベルを重視している」というメッセージを示したばかりだった。しかし今年は支援が得られておらず、渡航費や宿泊費に加えて、ナショナルキットも自費で購入しなければならないという。レース中の着用が義務づけられているキットで、ジャージが約13,000円(60ポンド)、レーススーツが約25,900円(120ポンド)だ。
- ソフィー・ライト(リブル・アウトライアーズ):
- 今年の英国グラベルチャンピオン。旅費の大部分を自己負担したうえ、レースキットの購入費も加わる。「国を代表するために、ナショナル連盟から自分でキットを買わなければならないのは、少し変だと思う。エリートのプロ選手で、英国チャンピオンなのだから、ブリティッシュ・サイクリングにはある程度の支援をしてほしい」
- マディ・ナット:
- これまでのグラベル世界選手権に全て出場している、完全なプライベーター。スポンサー収入で生計を立てており、その収入からオーストラリア遠征の費用を捻出している。「もし誰かが表彰台に立った時に、間違ったキットを着ていたら、ブリティッシュ・サイクリングやスポンサーにとって見栄えが良くない。失格のリスクすらあると思う。でも、それを防ぐための費用を選手が負担すべきなのだろうか。2年前のキットを着ることもできるけれど、SNSの写真で正しい英国代表キットを着ていないことになる。正しいキットを着ることは大切だと思うけれど、それを自分で賄うのは私の責任ではないと思う」
米国勢は「連盟の支援なし」と明文化
北米を拠点とする一部選手の欠場は、ライフタイム・グランプリ最終戦との日程の重複が主な原因だが、費用面や米国自転車連盟(USAサイクリング)からの支援不足も一因となっている。
米国チャンピオン、コーブ・フリーバーン選手のコメント
「出場しない理由の一部は日程の重複だけれど、もう一つはオーストラリアまでの費用だ。とても高額で、USAサイクリングからもトレックからも支援は得られなかっただろう。日程が重なっていることと支援がないことを考えれば、米国の男子選手が3人しか遠征しないのは驚きではない」。
USAサイクリングの選考基準書には、「自動招待を受けた選手、または同連盟の裁量選考で推薦された選手は、この大会に関する費用を自己負担する。USAサイクリングは、いかなる選手の費用も負担しない」と明記されている。
オランダは宿泊とウェアを提供、ただし「使い回し」
マリアンヌ・フォスと、ゲーリケ・スフルースという2名のタイトル候補を擁するオランダは、スタッフを帯同させて選手をサポートする。宿泊も提供するが、オーストラリアへの渡航費は選手本人の負担だ。ただしスフルース選手は、所属チームのスペシャライズド・オフロードと共に移動する。
「スペシャライズド・オフロードからとても良いサポートを受けているので、私たち選手にとっては、通常のレース遠征とほとんど同じ。だから楽」とスフルース選手は話す。一方でウェアについては、英国選手のような費用負担の問題はないものの、オランダ連盟が提供するのは使い回しのキットだ。「ウェアは提供してもらえるけれど、後で返却しなければならない。そしてそれは次の機会に使われる。だから、他の誰かがこのキットを着ていたことは、あまり考えないようにしている」。
「五輪種目のみ」を優先する連盟の事情
オーストラリア、ベルギー、英国の各連盟は、世界選手権に出場する選手への支援において、五輪種目と非五輪種目で区別を設けている。これがエリート選手への支援不足の理由とされている。
ブリティッシュ・サイクリング広報担当者のコメント
「非五輪種目であるグラベルは、他の分野と比べて、支援に充てられる資金や資源が異なる。私たちはグラベルの成長を支援し続けることを約束しており、この種目が発展していく中で、将来の大会を支援するための機会や資源を引き続き探っていく」。
まとめ
ヨーロッパを離れ、オーストラリアという遠隔地で開催される今回のグラベル世界選手権は、種目としての成長と、選手への支援体制の整備とのギャップを浮き彫りにした。プロ選手たちが、個人の財布から「国を代表する」費用を支払っているという現実は、グラベルが今後さらに主流の競技になっていくうえで、避けて通れない課題と言えそうだ。
- Owen Rogers, “‘I don’t think it’s my responsibility to finance that’ – Gravel pros forced to buy their own kit and fund travel to Australia for World Championships”, Cyclingnews, 2026年10月8日
