ドイツ名門ライトウェイトの工場潜入。新作「Meilenstein Art」の革新と実力
圧倒的な軽さと剛性で、1990年代からロードバイク用カーボンホイールの最高峰として君臨し続けてきたドイツのブランド「ライトウェイト(Lightweight)」。
近年は他ブランドのワイドリム化や軽量化の波に押される場面もありましたが、今回、現代的なリムプロファイルと新技術を搭載した新作ホイール「Meilenstein Art」が発表されました。
本記事では、海外の自転車メディア『Cyclist』によるライトウェイトの工場潜入ルポをもとに、重量わずか1,190gを誇る新作ホイールの全貌を解説します。
リムからリムへと貫通する独自のカーボンスポーク構造や、内部を補強する新技術「Alpha Rib Technology」、そして120万円を超える価格設定と引き換えになる構造上の弱点について、最新の海外情報を整理してご紹介します。
Cyclistなどの記事をまとめました。
Reinventing the wheel: behind the scenes at Lightweight | Cyclist
「車輪の再発明」に挑む
ジグの上には、まるで黒いリコリス菓子のように、樹脂をしたたらせたカーボンファイバーの束が並んでいる。しかし「TOXIC(毒性)」と書かれた開放容器と、防護具に身を包んだ技術者たちの姿が、ここが菓子工場ではないことを物語る。この光景は、ドイツのホイールメーカー、ライトウェイトの新作「Meilenstein Art」ホイールが生まれる工程のひとつ ― 同社の代名詞であるカーボンスポークへの樹脂コーティング作業だ。
- ライトウェイトは、スポークがハブを貫通せず、リムの片側からもう片側まで一本の連続した繊維でつながる独自構造を採用
- 新作「Meilenstein Art」は、この構造に加えて新開発の「Alpha Rib Technology」をリム内部に導入
- 公称重量は1,190g、価格は約121.6万円(スチールベアリング仕様)・約129.8万円(セラミックベアリング仕様)
- スポーク交換ができない構造ゆえの弱点はあるものの、剛性・軽さの面では今なお業界屈指の存在
※価格は欧州でのメーカー希望小売価格(ユーロ)をもとに、2026年9月時点のレート(1ユーロ=約185.7円)で円換算した参考値です。
「スポークを途切れさせない」というこだわり
「私たちにとって、これまでずっとカーボンスポークがすべてだった。荷重をリムの片側からもう片側まで、途切れさせることなく伝えることが重要なんだ」。同社CEOのクリスティアン・リヒテンベルク氏はそう語る。
一般的なホイールのスポークは、ハブからリムに向かって放射状(垂直方向)に伸びる構造になっている。しかしライトウェイトのスポークは、リムの片側からハブを斜めに(接線方向に)横切り、反対側のリムまで一本の連続した長さでつながっている。リヒテンベルク氏によれば、この構造こそが、同社のホイールが誇る圧倒的な剛性の核心だという。
この「リム・トゥ・リム(R2R)」と呼ばれるスポーク設計は、ハブ内部で曲げや切れ目、機械的な接続部を一切介さず、一本のカーボンファイバーがリムからリムへとまっすぐ貫通する構造だ。リムの内部でも、スポークの繊維がベンドや破断を伴わずに直接ボンド接着されており、繊維本来の荷重伝達経路をそのまま活かすことで、より高い引張強度と、疲労への耐性、そしてライダーと路面との間のよりダイレクトな応答性を実現しているという。

ライトウェイトというブランドの原点
ライトウェイトのホイールは1997年、その軽さと剛性の高さで自転車業界に衝撃を与えた。創業者ハインツ・オーバーマイヤー氏が、自宅ガレージで古いトラック用ヒーターの部品を組み合わせた自作の装置でカーボンを硬化させ、1日にわずか1本というペースで手作業でホイールを作り上げていた ― そんな逸話が残るブランドだ。やがてその評判は世界トップクラスの選手たちの耳にも届き、瞬く間に需要が供給を上回るようになったという。
その後、長年にわたり大きなモデルチェンジをせずに来たライトウェイトだが、近年は内幅の狭さや、V字型のリムプロファイルが「レトロ」に見えてしまうほど、他ブランドの新型モデルに軽さの面でも追い抜かれる場面が増えていた。今回の「Meilenstein Art」は、そうした状況に対する“原点回帰かつ全面刷新”の一台と位置づけられている。
新技術「Alpha Rib Technology」とは
Meilenstein Artの最大の見どころは、リム内部に隠された「Alpha Rib Technology(ART)」だ。従来の中空構造とは異なり、リム内部に構造用リブのネットワークを組み込むことで、横方向の剛性を大幅に高め、サイドからの荷重に対してプロファイルを補強し、鋭いハンドリングと効率的なパワー伝達を実現しているという。
- スポーク末端から伸びる平らなタブが、リム内部の断面形状に合わせて配置される
- これによりリム内部の空間が20の独立したセクションに分割される
- 各セクションが構造的なブレース(補強材)として機能し、スポークのアンカー(固定点)の役割も果たす
- カーボンスポークはこのリブ構造に直接ボンド接着され、不要な曲げを排除
同社研究開発責任者のミヒャエル・ヒュープナー氏は、この新型リムについて「これまで使ってきた製法や工程を見直し、これまで使ってこなかった手法も取り入れながら、従来のV字テーパーではなく、幅広で丸みのあるリムを実現する“現代的なホイール”を作ろうとした。もちろん、軽さや卓越した剛性といった、私たちの強みを犠牲にすることなく」と説明している。
スペックと価格
- 公称重量:1,190g
- リム内幅:22.9mm
- リム深さ:45mm
- フック付きリム、28mm以上のタイヤに最適化
- リムベッドは閉構造のため、リムテープなしでチューブレス化が可能
- カーボンスポーク前後20本、リム・トゥ・リム構造
- 自社設計アルミハブ「Penta-Fly」、DT Swiss製ハイエンド内部機構を採用
- ベアリング:スチール/CeramicSpeed製セラミックの2グレードを用意
- 参考価格:スチールベアリング仕様 約121.6万円、セラミックベアリング仕様 約129.8万円(欧州希望小売価格 各6,550ユーロ/6,990ユーロ)
内幅22.9mmは、Zipp「353 NSW」の25mmには一歩譲るものの、Enveの最新モデル「SES 4.5 Pro」の23.5mmとはほぼ肩を並べる水準だ。またリムはフック付き構造のため、幅広いタイヤに対応でき、公式には28mm以上のタイヤでの使用が推奨されている。
唯一にして最大の弱点 ― 「スポークは交換できない」
この構造には一つ、避けられないトレードオフがある。スポークがリムとハブに直接ボンド接着されているため、万が一1本でも破損すれば、そのホイール自体の寿命が尽きてしまうという点だ。この点についてヒュープナー氏は、スポーク自体が非常に強靭なため破損はほとんど起こらないとしつつも、特に頻繁に自転車を輸送する場合には考慮すべき要素だとしている。空港の手荷物取扱いは、高価なカーボン工芸品への敬意を払ってくれるとは限らない、というのが実情だ。
箱から取り出した瞬間から、Meilenstein Artの技術的な作り込みは一目瞭然だという。カーボンスポークはリムの片側からもう片側まで到達し、ハブシェルに突き刺さるのではなく、その周囲を包み込むように取り付けられている。名門ブランドの名声、独自の製造技術、そしてついに現代的なリムプロファイルを手に入れた一台 ― という評価がある一方、より手頃な価格の代替モデルも存在する、というのがレビューの結論だ。
まとめ
1990年代に「革命的」と評されたライトウェイトのカーボンホイールは、カーボン製ホイールがすっかり一般化した今の時代にあっても、なお未来的な存在感を放っている。今回の工場潜入で見えてきたのは、樹脂まみれの地道な手作業の積み重ねの先に、この“再発明された車輪”が生まれているという事実だった。
- “Reinventing the wheel: behind the scenes at Lightweight”, Cyclist, 2026年9月
